小説風

彼が去ってから、もうしばらくになる。
彼がネットの日記に残した最後のメッセージもじき消えてしまうのだろうか?
彼の最後の言葉は、こうである。

タイトル:なかなのなとににみにくらみきら
本文:みちのなみちすなかちみみ

なくなるにはどうしてもわからなかった。
二人は、恋人以上友人未満のような関係の付き合いだったのに、突然消えてしまった彼のメッセージが。
もどかしい思いで、毎日彼の日記を見に来てしまう。
またなんでもない様子で、顔を見せにくるんじゃないかという、無駄な期待が拭えない。
もう新しい日記が書かれることはないのはわかっているけど、すっかり習慣になってしまった。
この日記サイトは、一年書かないとアカウントが削除されてしまう。
…もうじき、彼が書いた日記は消えてしまう。
なくなるは、彼の日記を保存することを考えたが、何だか彼の日記が過去の物になってしまうようで、その気になれなかった。

にあには、彼のメッセージがもうわかっていた。
なくなるがメッセージの意味を知りたがる気持ちも痛いほどわかっていたが、にあはなくなるに気づいて欲しかった。
教えてしまっては、彼のメッセージが薄れてしまうような気がして、どうしてもできなかった。
そのせいで、なくなると喧嘩になってしまい、なくなるとも連絡を取らない日がずいぶんになってしまったが、にあは後悔していない。

そんなある日、にあのキーボードが突然壊れた。
長年使ったし、寿命と諦めて新しいのを買いにいくことにする。
キーボードを選んでいると、HappyHackingKeyboardを見つけた。
これをみるとなくなるの顔を思い出す。
なくなるは、ゲームでは使いにくいのに、これを得意そうに使っていた。
そんなことを思い出して、パッケージを見て、にあははっとした。
「そうか…これじゃあ彼のメッセージはわからない…!」

なくなるの部屋に、郵便物が届いた。
にあからだ。
あいつとは、メッセージのことで喧嘩をしてから久しく連絡を取っていない。
メッセージの答えを教える気になったのだろうか?
開けてみると、日本語キーボードが入っていた。
手紙のたぐいは一切ない。
ちょうどキーボードにコーヒーをこぼしてしまい、乾かしていたところだし、使ってみることにする。
日本語キーボードに書いてある、日本語キーを使っている人はいるのだろうか、と思いつつ、CTRLの位置がいつもと違って、もどかしさを覚えながら、彼の日記を見に行く。
その時点でなくなるは気づいた。

「…! もしや… カナ入力で書いたのか…?!」

焦りながら彼のメッセージを一文字一文字入力していく。
そして現れたのは、

タイトル:うつくしいにほんご
本文:なくなるたん

なくなるの頬を涙がつたった。




fin